オフィスに求められる役割が「場の提供」から「ブランド体験」へと変わるにつれ、オフィスビルに対する価値観の二極化が進んでいます。「住友不動産」「野村不動産」「森ビル」など、大手ディベロッパーが運営する全面ガラス張りの高層ビルに人気が集中する一方、昭和40年代〜50年代に建てられた古ビルをリノベーションしてオフィス利用するケースが年々増加しており、「古い=ボロい」から「古い=味がある」へとその価値観は変化し「キレイさ」よりも「心地よさ」を求める企業が急増。この二極化は原状回復工事においても同様であり、高層ビルは即入居を目的としたオフィス工事、古ビルは特性を活かしたスケルトンの原状回復工事が目立ちます。
オフィスは「働く場」から「ブランドを体感する場」へと、その役割を大きく変えています。オフィス空間でのブランド体感を通し、企業ブランドの姿勢を従業員と共有することでブランド・エンゲージ強化を図る企業が急増するなか、賃貸経営はどうあるべきでしょうか。企業のブランド体感を目的とするオフィスデザインにおいて、壁紙やパーテーションで仕切られただけの原状回復工事で募集をかけていては、立地や広さ等の基本スペックだけで魅力的に映らなければ借り手はつきません。この状態で賃貸募集をした結果、長年にわたって借り手が付かず空室状態であったり、借り手を付けるため大幅に賃料を下げて募集をかける負のスパイラルに陥った物件も散見されます。
従来型のオフィス賃貸は入居企業がコンセプトに合わせてオフィス工事を行うケースが一般的でしたが、オフィスに求められる役割が「場の提供」から「ブランド体験」へと変化したことに伴い、オフィスビルそのものの価値観も大きく変わっています。特に立地条件に恵まれない空室の目立つ古ビルや、広さに劣る物件などはリノベーション工事による付加価値が空室対策にも大変効果的です。ビルオーナー側の負担したリノベーション費用等は、中長期的な契約期間を設けた毎月の賃料上乗せによって相殺され、入居企業側も入居時のイニシャルコストが下がり入居が容易となるため、リノベーションによる物件の高価値化がビルオーナー・借り手の双方にとってWin×Winの効果をもたらしています。